卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

マインドワンダリング(Mind Wandering)

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最近マインドフルネスという言葉をよく耳にするようになりました。マサチューセッツ大学医学部において医学的効果が科学的に実証された心理療法の1つです。アメリカ心理学会では、ストレス対策の柱として、その有益性を支持しています。Googleなどの大企業が研修に取り入れたことでも知られています。 マインドフルネスが求められる背景の1つとして、人が無意識に行っているマインドワンダリング(mind wondering)の問題が挙げられます。マインドワンダリングとは、「目の前の現実ではなくて、過去の記憶、未来を想像することにとらわれている状態」をさします。今回Scienceに掲載されたmind wanderingに関する論文をご紹介します。

Killingsworth M. A.とGilbert D. T. (2010) は、リアルタイムの思考、感情、行動を評価することができるiPhone専用のアプリケーションを開発しました。そのアプリケーションは、日中の様々な時間帯に被験者に向けて次のような質問をします。「今どのような気持ちですか?」「今何をしていましたか?」「今行っていること以外のことを考えていましたか?」。2250名の成人(58.8%男性、73.9%米国在住、平均年齢34歳)のデータを分析した結果、被験者のうち46.9%は、目の前で行っていること以外のことを考えている、すなわちマインドワンダリングの状態にあったことが示されました。また少なくとも30%の被験者は、全ての活動の中でマインドワンダリングの状態にありました。今行っている活動が何であるかということは、マインドワンダリングの有無と強い相関はなく、マインドワンダリングの内容とは全く関連しませんでした。マルチレベル解析の結果、マインドワンダリングをしていない人に比べて、マインドワンダリングをしている人は、より幸福度が低いことも示されました。マインドワンダリングをテーマ別に検証したところ、楽しいこと(42.5%)、楽しくないこと(26.5%)、どちらでもないこと(31.0%)に分類した場合、楽しくないことおよびどちらでもないことをテーマとしたマインドワンダリングは、マインドワンダリングしていない状態よりもより低い幸福度であることが示されました。一般的にネガティブな感情がマインドワンダリングを引き起こすとされいますが、タイムラグ解析の結果、この研究の被験者はマインドワンダリングがネガティブな感情を引き起こしていました。さらに、何を考えているかということが、何をしているかということよりも幸福度の予測因子となっていました。


マインドフルネス心理療法では「今ここ(to be here now)」を意識するようなトレーニングを行います。このようなマインドフルネスの考え方は、実は多くの偉大な哲学者、心理学者らが言及してきたテーマです。あなたは「今」何を考えていますか。過去の嫌な出来事にとらわれ、目の前の幸せなひとときを見過ごしていませんか。どうぞ「今」の時間を大切にお過ごしください。

Killingsworth M. A. & Gilbert D.T. A wandering mind is an unhappy mind. Science. 2010:330 (6006);932.