卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

「作る」ことが幸福感を高める

近頃、自分自身で家具や小物を作るDIY (Do it yourself) が人気を得ています。流行の背景には、インターネットの普及、消費社会からサステナブルな社会、すなわち持続可能な社会へのシフトがあげられますが、コロナ禍による巣ごもりも一役を担いました。DIYは、もともと「自分自身でする」ことを意味します。家具や小物だけでなく全てのモノづくりの活動を含めてMaker活動という言葉が使用されるようになってきました。今回は、Maker活動の心理的効果について調査した研究をご紹介します。

Collierらは、心理学入門コースに参加していた大学1年生465名(女性73%、男性27%、平均年齢20歳)を対象として、Maker活動の種類、活動時間、および活動をする理由についてオンラインで調査を行いました。Maker活動として、料理、お菓子作り、ガーデニング、釣り、木工、電子工作、機械修理、金属加工、写真・映像、絵画、縫製、編み物、陶芸、CG/webデザインなどが選択肢として提示されました。その結果、大学生は、1週間に約3時間、Maker活動を行っていました。主な活動内容は、料理、写真・映像、お菓子作り、電子工作、絵画、ガーデニングでした。参加する理由は、気分転換、友人との交流、および集中欲求でした。自分がMakerであると認識していることを示すMakerアイデンティティが高い場合、主観的幸福感は高く、自己焦点は低い状態と関連していました。自己焦点が低い状態とは、自己中心性が低く、自分と他者とのバランス感覚をもち、静かな自我の状態とされいます。Maker活動中のポジティブな気分が高い場合、自己焦点は低く、年齢が高いことと関連していました。また、うつ病の重要なリスク要因として反芻が知られています。反芻とは、抑うつ気分の際に、抑うつ症状、原因、結果について繰り返し考えることを意味します。本研究で、反芻は、Makerアイデンティティとは直接関連していませんでしたが、低い主観的幸福感と関連していました。

今回の研究は、大学生を対象としたため、手軽で安価にできる活動が選択されたケースが多かったと思われます。例えば、社会人、子育て世代、中年世代では、Maker活動の内容はそれぞれ異なることでしょう。また先行研究では、Maker活動をする理由として、経済的メリット、既製品への不満、カスタマイズ欲求に加えて、達成感、楽しさ、コントロール感覚が挙げられています。坂本龍一は、ニューヨークでレストランを経営する日本人シェフに、「料理はアートだ。経営に失敗しても、また挑戦すればよい。」と言ったそうです。Maker活動、けっして芸術家のためだけのものではなく、どんな人でも始められる素晴らしい活動といえます。

Collier, AF, Wayment HA. Psychological Benefits of the “Maker” or Do-It-Yourself Movement in Young Adults: A Pathway Towards Subjective Well-Being. Journal of Happiness Studies.  2018, 1217-1239.