卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

柔軟に対処法を変えてみる(Coping Flexibility)

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コーピングとは,ストレスを受けたときの対処行動のことを意味します。甘いものを食べる,お酒を飲む,友人と話す,事象の解釈を変えてみる,怒りをコントロールするなどなど。これらは全てコーピング方略です。よりたくさんのコーピング方略をもつことが良いとされていますが,1つのコーピング方略がうまくいかなかった場合に他のコーピング方略へ変更する能力もまた重要なのです。このようにコーピング方略は様々ですが,状況によってコーピング方略を変えて,そのときどきに最適なコーピングを選択する能力のことを柔軟性(coping flexibility)と言います。東洋大学の加藤司先生が尺度開発を行っています(Kato T., 2012)。今回は,その尺度の英国人における妥当性と信頼性を評価し,楽観思考(正確には楽観主義)(optimism)と共に心理的健康度であるストレス度と人生満足度との関連性を報告した研究をPsychological Research and Behavior Management.からご紹介します。

Reedは95名の英国の大学生を対象として質問表を用いた横断研究を行いました。その結果,coping flexibility尺度はやや改善の余地はあるものの,英国人に対しても信頼性のある尺度であることが示されました。また,階層的重回帰分析と共分散構造分析の結果,coping flexibilityはoptimismを介して間接的にストレスの低減効果があることが示されました。同様にcoping flexibilityはoptimismを介して間接的に人生満足度を高めることが示されました。Reedは考察の中で,optimismそのものは変動しづらい性格特性であるため,coping flexibilityの能力を高めることで,optimismが高まり,ストレス低減効果および人生満足度の改善効果がみられるのではないかと述べています。

昔から「人生は柳のようであれ」と言いますね。柳はゆらゆらと風に流されているようで,しっかり芯をもち,簡単に折れることはありません。風がやめば,すぐに元の位置に戻ります。ストレスを受けて,動揺し,落ち込むことがあっても,心が折れることはなく,またすぐに立ち直ることが出来る。そんな柳のように強くしなやかに生きてみてはいかがでしょうか。


Reed DJ. Coping with occupational stress: the role of optimism and coping flexibility. Psychological Research and Behavior Management. 2016:9;71-79. 

Kato T. Development of the coping flexibility scale: evidence for the coping flexibility hypothesis. Journal of Counseling Psychology. 2012:59(2);262-273.