卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

フロー体験を日々の生活の中で実践する

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フロー(Flow)体験という言葉を1度は聞いたことがあるのではないでしょうか。有名な野球選手が、ヒットやホームランを打つとき、ボールが止まって見えた、というのは有名な話です。1975年に心理学者のミハイ・チクセントミハイによってフロー理論が提唱されました。その中で、フローとは、高い集中状態における感覚であるとしています。では、このフロー体験は特別なアスリートしか経験できないのでしょうか。どうやらそうではないようです。今回は、このフロー状態が    オートテリックな性格(好奇心、粘り強さ、利他主義、内的動機付け、挑戦を楽しむ、退屈からの脱却、注意制御)とウェルビーイングwell-being、幸福感)の媒介因子として作用することを示した論文をご紹介します。

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らは、調査研究と日記研究の2つの研究を行いました。最初の研究では、26項目のオートテリック性格検査、21項目のフロー尺度に加えて、ウェルビーイングとして、5項目の人生に対する満足度と8項目のフラーリッシュ(flourishing、繁栄度)尺度を実施しました。18歳以上の米国人を対象とし、最終的に390名(平均年齢42.8歳、女性49.0%)の回答を用いて、パス解析を行いました。解析では、年齢、性別、人種、教育レベルをコントロール因子としました。その結果、    オートテリックな性格傾向が高い人は、より多くのフロー体験を経験していました。また、生活に対する満足度が高く、高いフラーリッシュ状態で、楽しみを経験していることが示されました。そこで著者らは、個人レベルだけでなく、日にちレベルでそれらの関連性を評価することを目的として、10日間の日記を用いた介入研究を行いました。参加者は、毎日9項目のフラーリッシュ度を測定(回答)しました。そして、午前中、午後、夜のいずれかのランダムなタイミングで、その時に取り組んでいたこと、感じていることを記録しました。感じていることは、穏やか、緊張、退屈、ストレスの4つの感情について7段階で評価しました。最終的に127名(平均年齢49.4歳、女性53.5%)が記録した日記を解析しました。コントロール因子は最初の研究と同様とし、マルチレベルパス解析を行いました。その結果、先の調査研究と同様に、オートテリックな性格傾向が高い人は、より日々の活動の中に多くのフロー体験を経験していました。また、彼らは多くの肯定的な感情をもち、高いフラーリッシュ状態で、幸福度が高いことが示されました。

この論文は、オートテリックな性格の人は、フロー体験を通して、より幸福を感じることができることを示しています。と同時に、一流のアスリートでなくても、フロー体験は、日々の日常生活の中で誰でも実践できることを示唆しています。「私は、オートテリックな性格ではない。」と諦めないでくださいね。やはり、この研究も因果関係を実証したものではありません。つまり、日々の性格の中でフロー体験を増やしていくと、オートテリックな性格が形成されやすくなるということも仮定できるのです。私個人としては、双方向性の関連性があると考えます。子供の頃、夢中で遊んでたら、日が暮れてた、そんな記憶を思い出してみてください。何気なく流れていく日常の中に、時間を忘れるくらい没頭する何かを見つけることは、日々の充実感につながっていくことと思います。

Tse DCK, Nakamura J, Csikszentmihalyi M. Living well by “flowing” well: The indirect effect of autotelic personality on well-being through flow experience. Journal of positive psychology. JAN 2020.