卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

コロナ禍で心の健康を維持する

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連日、コロナ感染者が過去最高を記録したというニュースを耳にします。多くの市町村で飲食業の時短営業が開始され、学校ではオンライン講義が増加し、日常の生活スタイルの変化を余儀なくされている方も多いのではないでしょうか。心の健康にとって、何をして過ごすかということと同時に、どのような感情を抱いて過ごすかということが、とても大切です。ポジティブ心理学セリグマンは、well-beingの概念として、positive emotion(肯定的感情)、engagement(物事への没頭)、relationship(良好な対人関係)、meaning(人生の意味や意義)、accomplishment(達成感)をあげています。今回は、アイルランドにおいて、コロナ禍によるロックダウン中に、人々が日々どのような感情を抱いて過ごしたかを調査した研究をご紹介します。

Leonhard Kらは、ロックダウン中の2020年3月25日に18歳以上の604名(男性191名、女性413名、平均年齢47歳)に対してオンラインによる調査を行いました。調査の内容は前日に何をしたか、またその際どのように感情を抱いたか、最大5つまでエピソードとして記述してもらいました。その結果、参加者は平均4.63個のエピソードを報告しました。参加者は、大半の時間を自宅で過ごしており、食事をする、テレビやストリーミングを見る、仕事をする、学習をする、などが主な活動でした。場所と感情の関連性を分析した回帰分析の結果、屋外や自然の中にいることが、高いポジティブ感情と最も関連していました(b = 0.59, SE = 0.05, p < .01)。また、活動内容と感情の関連性を分析した回帰分析の結果、運動(b = 0.46, SE = 0.07, p < .01)、ウォーキング(b = 0.33, SE = 0.06, p < .01)、ガーデニング(b = 0.29, SE = 0.09, p < .01)、趣味(b = 0.23, SE = 0.09, p < .05)が高いポジティブ感情と関連していました。一方、ソーシャルメディアの利用(b = 0.11, SE = 0.04, p < .05)、子供の自宅学習(b = 0.30, SE = 0.07, p < .01)、新型コロナの情報収集(b = 0.27, SE = 0.04, p < .01)が非常に高いネガティブ感情と関連していました。

日々の生活の中で、何かもやもやするものを感じた時、それがどのような感情なのか、あらためて意識を向けて、その感情と向き合い、言語化することは少ないと思います。感情の抑圧は、身体の不調につながることもあります。新型コロナの感染による死亡だけでなく、心理的負荷による自殺の増加も深刻です。著者らは考察において、子供のオンラインによる自宅学習環境の整備と新型コロナの情報に接する時間の制限の必要性に言及しています。テレビなどのソーシャルメディアから、新型コロナに関するたくさんの情報が流れています。中には、必要以上に不安をあおる報道があるのも事実です。正しい情報を、適切な方法で、適切な時間に限って入手する、そのようなソーシャルメディアとの賢い付き合い方が必要のようです。

Lades LK, Laffan K, Daly M, Delaney L. Daily emotional well-being during the COVID-19 pandemic. Br J Health Psychol. 2020;25(4):902-911