卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

表情から正確な感情を読み取る

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マスクが欠かせない生活になりましたね。もともと日本人はマスクに抵抗感がない人が多いですが、欧米ではマスクに抵抗感をもつ人が少なくありません。これには何か理由があるのでしょうか。先日、こんなニュースを見ました。日本の絵文字は目で感情を表現していることが多く、欧米の絵文字は口で感情を表現していることが多い、これは実際のコミュニケーション方法を投影していると考えられ、だから欧米人は感情を表現しにくくなる、もしくは表情を読み取りにくくなるマスクをしないのだろうというものです。なかなか興味深いですね。例えば、笑顔は、日本では「 (^^) 」と表現しますが、欧米では「 :-) 」と表現します。日本人が感情を読み取るときに目を重視することは、以前、北海道大学の先生もご報告されています。今回は、様々な感情を正確によみとる場合、顔のパーツのどの部分を重視する傾向があるのかを示した論文をご紹介します。

Wegrzyn
らは、学生94名(女性60名、男性34名、平均年齢24歳)を対象として以下の実験を行いました。6種類の感情(幸せ、悲しみ、怒り、恐れ、嫌悪、驚き)と無表情の計7種類、男女別の顔写真を使用しました。1人の被験者に顔写真の提示を224回行いました(男女別の写真×7種類の表情×16回の反復)。1枚の顔写真は小さなパネルに分割されており、時間の経過とともに、徐々にパネルが開示され、表情が判別できるようになります。被験者は表情を判別できた時点でストップボタンを押し、正解がフィードバックされます。平均時間は約50分でした。その結果、幸せの感情がもっとも早く判別され、悲しみがもっとも判別まで長い時間を要しました。また幸せの感情は、ほぼ正確に判別されていましたが、悲しみの感情はもっとも正確に判別されていませんでした。また多くの先行研究と同様に、他者の感情を読み取る場面において、目元と口元のパーツがとても重要であることが示されました。さらに、幸せと嫌悪の感情の判別には口元のパーツが重視されていましたが、恐れ、悲しみ、怒りの感情の判別には目元のパーツが重視されていました。

最初のお話に戻してみましょう。日本人は欧米人よりもコミュニケーションにおいて目元を重視します。今回の結果が日本人にも当てはまると仮定した場合、日本人は幸福感や嫌悪感よりも、恐れ、悲しみ、怒りをより多く認知する可能性がうまれます。そして、日本人は良い意味でも悪い意味でも他者の否定的感情にとても敏感であることになります。他者の否定的感情に心配りができる一方で、気を使い過ぎる一面があるのかもしれません。さらには、マスクを通した目元だけのコミュニケーションがそのような否定的な感情の認知に拍車をかけるとすれば、コミュニケーションの破綻も懸念されます。感染症予防を徹底するには、日常生活にマスクは必要不可欠です。しかしながら、他者の感情を正確に読み取り、適切なコミュニケーションを行うためには、目元の印象だけにとらわれることなく、適切な距離感と丁寧な会話を心掛ける必要があるようです。

Wegrzyn M, Vogt M, Kireclioglu B, Schneider J, Kissler J. Mapping the emotional face. How individual face parts contribute to successful emotion recognition. PLoS One. 2017;12(5).