卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

汗をかく習慣

普段の生活の中で汗をかくことはありますか。体が暑さになれることを暑熱順化と言います。暑熱順化がうまく機能している場合、人は体温が上昇したとき、発汗による気化熱、心拍数上昇や血管の拡張による熱放散によって体温を下げることができます。しかしながら、うまく機能していない場合は、体に熱がこもり熱中症を発症しやすくなります。また有酸素運動をしている人は、していない人と比較して、発汗量が多く、より少ない日数で暑熱順化できることが知られています。そこで、今回は、有酸素運動と暑熱順化を連続して行うことで、汗をかく能力がどのように改善するかを調査した研究をご紹介します。

Ravanelliらは、汗をかく能力の指標の1つである最大皮膚湿潤度が、有酸素運動と暑熱順化によって、改善されることを定量的に明らかにすることを目的としました。定期的な運動を行っていない8名(男性6名、女性2名)を対象として、8週間、主にトレッドミルを使用した有酸素運動を涼しい条件下(22℃, 30%RH)で行い、その後8日間の暑熱順化を高温多湿の条件下(38℃, 65%RH)で行いました。有酸素運動前、有酸素運動後、暑熱順化後のタイミングで105分間のトレッドミルを用いたウォーキングを行い、最大皮膚湿潤度、背中と腕の発汗量、活性化汗腺密度、汗腺出力を測定しました。有酸素量は、有酸素運動後に約14%増加しました(P < 0.001)。最大皮膚湿潤度は、有酸素運動前と比較して、有酸素運動後(P = 0.02)と暑熱順化後(P < 0.001)、徐々に増大しました。この変化は、背中と腕の発汗量、活性化汗腺密度が高い値を示すにつれて促進されました。しかしながら、汗腺出力は変化しませんでした。著者らは、暑熱順化により、最大皮膚湿潤度が有酸素運動後の値からさらに10%~15%上昇して補強されたことから、有酸素運動だけでは不十分であることを考察しています。

暑熱順化するためには、ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど、少しきついなと感じるくらいの程度で、1日15分から30分間行うことが推奨されています。また、入浴時は、シャワーでなく、湯船につかることも有効です。運動不足の方は、無理をせずに、ご自身にあったペースで始めてください。日々の生活において、汗をかく習慣を定着させることが何より大切です。

Ravanelli N, Coombs GB, Imbeault P, Jay O. Maximum Skin Wettedness after Aerobic Training with and without Heat Acclimation. Med Sci Sports Exerc. 2018;50(2):299-307. doi:10.1249

歯磨きで自信をつける

先日、政府は国民全員に歯科健診を義務付ける「国民皆歯科健診」の導入を検討することを発表しました。残存歯の減少や口腔ケアが十分ではない場合、誤嚥性肺炎、認知症、糖尿病など様々な疾患の発症に影響することが報告されています。今回の政策案は、このような合併症を予防して、歯科治療にかかわる医療費を削減することが目的です。しかしながら、口腔ケアは心理社会的な側面においても大切な役割があるようです。

 

Taylorらは、口腔ケアが対人行動にどのような影響をあたえるかを明らかにすることを目的として実験を行いました。英国の大学生および大学院生140名(男性54名、女性86名)のうち、参加基準を満たした131名のデータが解析されました。被験者は、研究目的は知らされない状態で、半数は歯磨きをする群、残りの半数は歯磨きをしない群に分けられました。お互いを知ることを目的として、1対1の3分間の短い対話を異なる相手と9回行いました。被験者は小型の装置を装着して、発言内容、発話量、動作の程度と方向などが全て記録されました。「歯磨きが神経質な行動を減らす」という仮説を検証するために、線形混合モデルを用いて解析を行った結果、歯磨きをした群は、歯磨きをしていない群と比較して、身体の動きが有意に小さいことが示されました(p < .001)。また、「歯磨きが積極的に発言させる」という仮説を検証したところ、歯磨きをした群は、言葉による主張が有意に強いことが示されました(p = .002)。ただし、これは他者から魅力が低いと評価された場合は、有意でしたが(p = .005)、他者から魅力が高いと評価された場合は、関連しませんでした(p = .207)。また対話が終わるごとに、被験者自身および相手に対して、「緊張している」vs「リラックスしている」、「自信がある」vs「自信がない」、「自分と似ている」vs「自分と違う」について、8段階で主観的評価を行ないました。その結果、歯磨きをした群は、歯磨きをしていない群と比較して、自信があり、リラックスしており、相手から「似た人である」と認識されていました。

 

先行研究では、口腔ケアは自尊心、幸福度 、第一印象と関連することが知られています。今回の研究は、口腔ケアの使用が、社会的認知や行動に良い影響をもたらすことを明らかにしました。最近では、歯ブラシ、歯磨き粉だけでなく、フロス、舌クリーナー、口臭ケアなども様々な種類の商品が販売されています。今後は、マスクを外して、人と会う機会も徐々に増えていくと思います。人と会う前は、身だしなみとしてだけでなく、自分に自信をもって、他者との良好なコミュニケーションのために、歯磨きをする習慣を身につける必要があるようです。

 

Taylor P, Banks F, Jolley D, et al. Oral hygiene effects verbal and nonverbal displays of confidence. J Soc Psychol. 2021;161(2):182-196. doi:10.1080/00224545.2020.1784825

上司の「聴く」姿勢は仕事への意欲を高める

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満開の桜が終わる頃、新年度になり、職場で部下を抱える立場になった方もいらっしゃることでしょう。パワーハラスメントが社会問題となり、多くの企業が、部下を育成するための研修を実施しています。人材育成の基本的な姿勢の1つとして、積極的傾聴(active listening)があります。ただ聴くだけで、人が育つのか。今回は、そんな疑問を検証した研究をご紹介したいと思います。

Jonsdottirらは、上司の積極的共感的傾聴(active-empathetic listening)が従業員のワークエンゲージメント(work engagement)にどのように関連するかを明らかにすることを目的としてアンケート調査を行いました。ワークエンゲージメントとは、職場における活力(vigour,)、熱意(dedication)、没頭(absorption)が満たされて、意欲に満ちた仕事上の幸福な状態と定義されます。分析には、アイスランドのthe Social Science Research Instituteに登録されている18歳以上の成人からオンラインで収集された873名(回収率 61%)のデータのうち、雇用状態にある548名(男性273名、女性275名)のデータを使用しました。ワークエンゲージメントの評価には、7項目の短縮版ユトレヒトワークエンゲージメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale)を用い、回答者の上司の積極的傾聴の評価には、11項目からなる積極的傾聴尺度(the active-empathetic listening scale)を使用しました。分析は、ワークエンゲージメントを目的変数とした線形回帰分析を行い、積極的傾聴との関連性を評価しました。性別、年齢、収入、教育、子供の有無の影響をコントロールした結果、上司の積極的傾聴のスコアが高いほど、ワークエンゲージメントは有意に高いスコアを示しました(β = 0.193; P < 0.001)。ワークエンゲージメントの3つの構成要素(活力、熱意、没頭)をそれぞれ目的変数にしたモデルにおいても、上司の積極的傾聴は、全ての要素と有意な関連を示しました(β = 0.142; P < 0.01, β = 0.236; P < 0.001, β = 0.141; P < 0.01)。さらに、積極的傾聴の高群と低群に分けて、各構成要素のスコアをt検定を用いて比較したところ、活力(5.70 vs 5.40, p < 0.01)、熱意(5.79 vs 5.33, p < 0.01)、没頭(5.55 vs 5.33, p < 0.1)のいずれの要素においても積極的傾聴の高群が有意に高いスコアを示しました。中でも、活力と熱意のスコアは高くなりました。

積極的傾聴は、話し手自身が問題解決をする支援をすることを目的としています。ですので、聞き手は自分の意見を主張せずに、結論を提示せずに、肯定的に耳を傾けることが基本的な姿勢です。つまり、とても忍耐力が求められます。教育において、親が口を出さずに、子供を見守ることと同じくらい難しいことだと思います。しかしながら、自ら考えて、決断をし、自身の行動に責任をもつ自立した人材を育成するためには、上司の積極的傾聴はたしかに有用であるようです。聞き手は、共感的に聴く、話し手の考えをまとめる、考えが広がる質問をする、達成できたことを一緒に喜ぶ、そのような姿勢が話し手の成長につながるのだと思います。

Jonsdottir IJ, Kristinsson K. Supervisors’ active-empathetic listening as an important antecedent of work engagement. Int J Environ Res Public Health. 2020;17(21):1-11.

ポジティブ感情を習慣化する

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日々の生活の中で、ポジティブな感情を維持し続けることはとても難しいことだと思います。ついネガティブな出来事に目が向き、考え続けてしまうことが多いのではないでしょうか。特に医療従事者は病気という深刻な状況下での対人業務、長時間勤務、業務の煩雑化によって燃え尽き症候群を発症しやすいことが知られています。新型コロナの流行によって、その問題はさらに深刻化しています。燃え尽き症候群の特徴として、物事の良い面に気づき、注意を向けることが難しい状態とされています。そこで、今回は、医療従事者に対して、ポジティブ心理学セリグマンが提唱したthree good thingsの有効性を検証した研究をご紹介します。

Sextonらは、医療従事者に対して、15日間のthree good thingsのプログラムを行い、その効果を感情的疲労(emotional exhaustion)、うつ症状、主観的幸福感、ワークライフバランスの4つの指標で評価することを目的としました。感情的疲労は、燃え尽き症候群の標準的な指標であるThe Maslach Burnout Inventoryの下位尺度の1つで、もっとも信頼性が高い指標です。プログラムでは、参加者は、毎晩、その日うまくいったこと、それを実現するために果たした役割を3つのエピソードに絞って記入し、それぞれのエピソードで感じたポジティブ感情を回答しました。プログラムには、228名の医療従事者が登録し、1か月後、6か月後、12か月後にフォローアップを行いました。その結果、感情的疲労、うつ症状、主観的幸福感は、プログラム前の指標を基準とした場合、1か月後、6か月後、12か月後の全てにおいて有意な改善を示しました。また、ワークライフバランスは、1か月後および6か月後に有意な改善を示しました。4つの指標の効果量は、小から中程度でした(0.16-0.52)。さらに、プログラム前に高い感情的疲労を示したグループでは、全ての指標で有意な改善がみられただけでなく、効果量も中程度から非常に大きな値(0.55-1.57)を示しました。

three good thingsは日本でもよく知られた心理技法です。方法はいたって簡単。毎晩、その日にあった良いことを3つ書くだけです。意識的に良いことに目を向けて、今まで気づいていなかった出来事や物事にポジティブな認知や感情を抱くことを習慣化することができます。これによって、幸福度の閾値が下がり、気分がよい状態を長く維持できるのです。three good thingsは、もともと個人で行うものですが、他者との関係においても応用されています。子育ての場合は、子供に毎晩、その日にあった良いことを3つ尋ねることで、子供の自己肯定感を育むことができます。また、最近の研究では、夫婦で一緒に実践することで、親密さが向上したことが報告されています。頭の中で考えるだけでなく、ぜひ書き出して実践してみて下さい。こんなに良いことがたくさんあったのに、どうして嫌なことばかり考えていたのかなと不思議に思うかもしれません。

Bryan Sexton J, Adair KC. Forty-five good things: A prospective pilot study of the Three Good Things well-being intervention in the USA for healthcare worker emotional exhaustion, depression, work-life balance and happiness. BMJ Open. 2019;9(3). doi:10.1136/BMJOPEN-2018-022695

コロナ禍で心の健康を維持する

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連日、コロナ感染者が過去最高を記録したというニュースを耳にします。多くの市町村で飲食業の時短営業が開始され、学校ではオンライン講義が増加し、日常の生活スタイルの変化を余儀なくされている方も多いのではないでしょうか。心の健康にとって、何をして過ごすかということと同時に、どのような感情を抱いて過ごすかということが、とても大切です。ポジティブ心理学セリグマンは、well-beingの概念として、positive emotion(肯定的感情)、engagement(物事への没頭)、relationship(良好な対人関係)、meaning(人生の意味や意義)、accomplishment(達成感)をあげています。今回は、アイルランドにおいて、コロナ禍によるロックダウン中に、人々が日々どのような感情を抱いて過ごしたかを調査した研究をご紹介します。

Leonhard Kらは、ロックダウン中の2020年3月25日に18歳以上の604名(男性191名、女性413名、平均年齢47歳)に対してオンラインによる調査を行いました。調査の内容は前日に何をしたか、またその際どのように感情を抱いたか、最大5つまでエピソードとして記述してもらいました。その結果、参加者は平均4.63個のエピソードを報告しました。参加者は、大半の時間を自宅で過ごしており、食事をする、テレビやストリーミングを見る、仕事をする、学習をする、などが主な活動でした。場所と感情の関連性を分析した回帰分析の結果、屋外や自然の中にいることが、高いポジティブ感情と最も関連していました(b = 0.59, SE = 0.05, p < .01)。また、活動内容と感情の関連性を分析した回帰分析の結果、運動(b = 0.46, SE = 0.07, p < .01)、ウォーキング(b = 0.33, SE = 0.06, p < .01)、ガーデニング(b = 0.29, SE = 0.09, p < .01)、趣味(b = 0.23, SE = 0.09, p < .05)が高いポジティブ感情と関連していました。一方、ソーシャルメディアの利用(b = 0.11, SE = 0.04, p < .05)、子供の自宅学習(b = 0.30, SE = 0.07, p < .01)、新型コロナの情報収集(b = 0.27, SE = 0.04, p < .01)が非常に高いネガティブ感情と関連していました。

日々の生活の中で、何かもやもやするものを感じた時、それがどのような感情なのか、あらためて意識を向けて、その感情と向き合い、言語化することは少ないと思います。感情の抑圧は、身体の不調につながることもあります。新型コロナの感染による死亡だけでなく、心理的負荷による自殺の増加も深刻です。著者らは考察において、子供のオンラインによる自宅学習環境の整備と新型コロナの情報に接する時間の制限の必要性に言及しています。テレビなどのソーシャルメディアから、新型コロナに関するたくさんの情報が流れています。中には、必要以上に不安をあおる報道があるのも事実です。正しい情報を、適切な方法で、適切な時間に限って入手する、そのようなソーシャルメディアとの賢い付き合い方が必要のようです。

Lades LK, Laffan K, Daly M, Delaney L. Daily emotional well-being during the COVID-19 pandemic. Br J Health Psychol. 2020;25(4):902-911



フラダンスは心疾患を予防する

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年の瀬となり、寒さが一段と増したように思います。この時期、心筋梗塞による死亡率が上昇します。特に血圧が高い方は要注意です。暖かい屋内から、寒い屋外に出ることで、血圧が急激に上昇して心臓に負担がかかり心筋梗塞を発症しやすくなります。高血圧治療ガイドライン2019では、非薬物療法として、減塩を中心とした食事療法、運動、アルコール制限、肥満の改善が推奨されています。今回は、運動の1つとして、ハワイの伝統文化であるフラダンスの降圧効果および心疾患の予防効果を検証した研究をご紹介します。

Keawe. J.らは、血圧コントロールが不良(収縮期血圧≧140mmHg、糖尿病の場合は収縮期血圧≧130mmHg)であるネイティブハワイアン263名を対象として6カ月間の介入研究を実施しました。参加者全員に心疾患に関する教育が実施され、フラダンスの教室に通うフラダンス群131名と教育のみのコントロール群132名にランダムに分けられました。6か月後、フラダンス群は80%、コントロール群は85%が継続しました。フラダンス群はコントロール群と比較して、収縮期血圧(-15.3mmHg vs -11.8mmHg)および拡張期血圧(-6.4mmHg vs -2.6mmHg)が有意に改善しました(p <.05)。また、フラダンス群はコントロール群と比較して、有意に血圧分類(<140/90mmHg、<135/85mmHg、<130/80mmHg)が<130/80mmHg(43% vs 21%)に改善しました(p <.001)。10年間の冠動脈疾患の発症を予測するフラミンガムリスクスコアにおいては、フラダンス群はコントロール群と比較して、有意に改善されていました(2.8%, 95%CI: -4.1, -1.4)。さらに、フラダンスによる全ての改善効果は1年間維持されていました。

フラダンスは、リラックス効果、ウエストの引き締め効果以外にも、幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンの分泌量をあげる効果、乳がん患者の生存率を高める効果が報告されています。フラダンスをしている友人によると、ある閉経女性がフラダンスを始めて月経が再開したそうです。女性ホルモンが上昇したのかもしれませんね。今後のフラダンスの生理的効果の実証研究を期待したいと思います。フラダンスは真夏のイメージのダンスですが、血圧が高くなるこの時期、室内でも気軽にできるフラダンスは、もっとも推奨される運動の1つかもしれません。

Keawe J, Kaholokula  aimoku, Look M, et al. A Cultural Dance Program Improves Hypertension Control and Cardiovascular Disease Risk in Native Hawaiians: A Randomized Controlled Trial on behalf of the Kā-HOLO Project. 2021; 55(10):1006-1018. doi:10.1093/abm/kaaa127

声援は選手のパフォーマンスをあげる?

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オリンピック、パラリンピックの選手のパフォーマンスに感動した方も多いことでしょう。コロナ禍での開催ということでたくさんの批判もある中、多くの選手が開催に対する感謝を述べていた場面はとても印象的でした。競技場のほとんどが無観客となる中、監督、チームメート、ボランティアからの応援はきっと心強いものだったと思います。では、そのような身近な人々からの声援が、本当に選手のやる気を高め、パフォーマンスを向上させるのでしょうか。

Fransen. K.らは、5人制のバスケットボールチームにおいて、コーチ、チームリーダーからのコンピテンス(有能感)サポートがサポートに対する選手の満足度、内的動機づけ、パフォーマンスに影響するかどうかを調査しました。この研究において、コンピテンスサポートとして、選手に対するポジティブなフィードバックを行いました。また、内的動機づけとは、心理学において課題の遂行にともなう自由選択や課題遂行それ自体に喜びや満足を見出す欲求のことを意味しますので、ここではバスケットボールをしていること自体に喜びを感じてプレーしたいと思っているかということになります。120名の男子選手を5人制のチームに分け、コーチ、チームリーダー、両者がコンピテンスサポートを行う群と対照群の4群にグループ分けをしました。1人の選手が2回シュートを行うテストを2回実施しました。1回目のテスト終了後に、コンピテンスサポートを行い、2回目のパフォーマンスへの影響、満足度、内的動機づけを調査して、分散分析を用いて解析しました。その結果、対照群と比較して、いずれの群も選手の満足度、内的動機づけ、パフォーマンスが有意に向上していました。また両者からコンピテンスサポートを受けた群は、コーチだけから受けた群と比較して、より高いパフォーマンスを発揮していました。さらに共分散構造分析の結果、コンピテンスサポートはパフォーマンスに直接影響するだけでなく、サポートに対する選手の満足度を介して、内的動機づけが高まり、パフォーマンスの向上に影響していました。

この研究で、チームリーダーは選手のアンケート調査の結果、リーダーとしてふさわしいと評価された選手が選ばれました。信頼できるリーダーからのフィードバックだったからこそパフォーマンスの向上につながったものと思われます。オリンピック、パラリンピックは、一流選手の身体能力を競う場である一方で、そのような選手を支える周囲の温かい支援の場でもあります。コロナ禍で人との関係性が疎遠になる中、人とのつながりの大切さを考えさせられますね。どうぞ、身近な誰かを精一杯、応援してみてくださいね。

K. Fransen, F. Boen, M. Vansteenkiste, N. Mertens, G. Vande Broek. The power of competence support: The impact of coaches and athlete leaders on intrinsic motivation and performance. Scand J Med Sci Sports. 2018;28(2):725-745. doi:10.1111/SMS.12950