卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

歯磨きで自信をつける

先日、政府は国民全員に歯科健診を義務付ける「国民皆歯科健診」の導入を検討することを発表しました。残存歯の減少や口腔ケアが十分ではない場合、誤嚥性肺炎、認知症、糖尿病など様々な疾患の発症に影響することが報告されています。今回の政策案は、このような合併症を予防して、歯科治療にかかわる医療費を削減することが目的です。しかしながら、口腔ケアは心理社会的な側面においても大切な役割があるようです。

 

Taylorらは、口腔ケアが対人行動にどのような影響をあたえるかを明らかにすることを目的として実験を行いました。英国の大学生および大学院生140名(男性54名、女性86名)のうち、参加基準を満たした131名のデータが解析されました。被験者は、研究目的は知らされない状態で、半数は歯磨きをする群、残りの半数は歯磨きをしない群に分けられました。お互いを知ることを目的として、1対1の3分間の短い対話を異なる相手と9回行いました。被験者は小型の装置を装着して、発言内容、発話量、動作の程度と方向などが全て記録されました。「歯磨きが神経質な行動を減らす」という仮説を検証するために、線形混合モデルを用いて解析を行った結果、歯磨きをした群は、歯磨きをしていない群と比較して、身体の動きが有意に小さいことが示されました(p < .001)。また、「歯磨きが積極的に発言させる」という仮説を検証したところ、歯磨きをした群は、言葉による主張が有意に強いことが示されました(p = .002)。ただし、これは他者から魅力が低いと評価された場合は、有意でしたが(p = .005)、他者から魅力が高いと評価された場合は、関連しませんでした(p = .207)。また対話が終わるごとに、被験者自身および相手に対して、「緊張している」vs「リラックスしている」、「自信がある」vs「自信がない」、「自分と似ている」vs「自分と違う」について、8段階で主観的評価を行ないました。その結果、歯磨きをした群は、歯磨きをしていない群と比較して、自信があり、リラックスしており、相手から「似た人である」と認識されていました。

 

先行研究では、口腔ケアは自尊心、幸福度 、第一印象と関連することが知られています。今回の研究は、口腔ケアの使用が、社会的認知や行動に良い影響をもたらすことを明らかにしました。最近では、歯ブラシ、歯磨き粉だけでなく、フロス、舌クリーナー、口臭ケアなども様々な種類の商品が販売されています。今後は、マスクを外して、人と会う機会も徐々に増えていくと思います。人と会う前は、身だしなみとしてだけでなく、自分に自信をもって、他者との良好なコミュニケーションのために、歯磨きをする習慣を身につける必要があるようです。

 

Taylor P, Banks F, Jolley D, et al. Oral hygiene effects verbal and nonverbal displays of confidence. J Soc Psychol. 2021;161(2):182-196. doi:10.1080/00224545.2020.1784825