卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

熱中症を予防する

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梅雨が明けて、急に暑くなりましたね。実は、この時期は、もっとも熱中症になりやすい時期です。気温が高いだけでなく、湿度も高く、体が夏の暑さに順応できていないことが原因とされています。特に今年は、熱中症で救急搬送された場合、新型コロナとの判別が難しいということで、処置が遅れることも懸念されています。まずは、熱中症の症状やその対策を知り、予防することが大切ですね。そこで、今日は、建設現場で働く人を対象に行った研究をご紹介します。

EI-Shafeiらは、建設現場で働く人を対象として、労働環境と脱水症や熱中症の発生状況を調査しました。また、熱中症に関する教育プログラムを実施し、その介入効果を評価しました。2016年の6月から8月の間に、3か所の建設現場で働く89名を対象としました。労働環境は、気温、湿度、仕事量、服装等が調査され、熱中症は代表的な症状の有無を確認することで評価し、脱水症は尿比重(尿中の固形成分の比率)と尿の色(尿の色の濃さを表のサンプルと比較して評価)の検査で評価しました。教育プログラムは計4回の20分のセッションで構成され、暑熱順化、体温調節、熱中症のリスク因子、熱中症の病態、熱中症の予防に関する教育が行われました。教育プログラムの実施前と実施1か月後にアンケート調査を行い、介入前後の熱中症の知識と行動の変化を分析しました。その結果、熱中症の症状の訴えは、発汗、めまい、筋肉痛の順番で多く、78.7%に軽度の脱水症状がみられました。また教育プログラムは、全ての項目に関して、知識が深まっていました(p < 0.001)。介入後は、介入前と比較して、尿の色をチェックする(p = 0.023)、同僚の異常がないか観察する(p = 0.015)、肌に冷たい水をかける(p = 0.026)、冷水シャワーを浴びる(p = 0.019)という行動の変化が多く報告されました。

この研究で使用されている尿の色をチェックする表(urine color chart)は日本語版もあります。興味のある方はぜひ検索してみてください。厚生労働省が発表している「熱中症診療ガイドライン2015」では、熱中症の予防・治療として、塩分と水の両者を適切に含んだものを摂取するとしています。経口補水液オーエスワンはよく知られていますが、その他にも梅昆布茶や味噌汁も有効と考えられるそうです。また最近では、塩飴など市販で手軽に購入できる商品も増えましたね。ただし、注意が必要なのは、スポーツドリンクです。塩分量が少なく、糖分が多いため多飲は避ける必要があります。熱中症を十分知った上で、身体の状態を観察しながら、適切な対策を行うことが、この暑さから身を守る最適な方法のようです。


DA EI-Shafei, SA Bolbol, MB Awad Allah, AE Abdelsalam. Exertional heat illness: knowledge and behavior among construction workers. Environ Sci Pollut Res Int. 2018;25(32):32269-32276. doi:10.1007/S11356-018-3211-8