卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

リバウンドをしない心をつくる

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コロナ太りしていませんか。家にいる時間が長くなると、ついつい食べ過ぎてしまうものですね。ダイエットを考えている方、始めた方、すでに挫折してしまった方、人それぞれではないでしょうか。食事制限と運動を長く継続することは大変です。しかしながら、痩せた状態をずっと維持し続けることはもっと大変です。Weight stigmaとは、体重に対する偏見、嫌悪感、差別意識を表す言葉です。今回は、このweight stigmaとリバウンドとの関連を示した研究をご紹介します。

Puhlらは、減量後の体重を維持する要因として、2つのweight stigmaを評価しました。1つはexperienced weight stigma。これは、体重が原因でいじめを受けた経験、または雇用や教育において差別を受けた経験のことです。もう1つはinternalized weight stigma。これは、自身の体重に自責感や否定的な感情を抱いていることです。2015年、Survey Sampling Internationalによるオンラインでのアンケート調査を行い、最終的に2,702名の米国成人から回答を得ました。Stigma以外の項目として、患者属性、ダイエットの経験、主観的な肥満度、食事のモニタリング行動、身体活動、ストレス、健康状態について尋ねました。本研究では、もっとも体重が重いときを基準とした場合に、少なくとも10%の減量があり、過去1年間に減量やその維持を試みた成人549名を分析対象としました。さらに対象者はリバウンド群(N = 549)と減量維持群(N = 314)の2群に分けられました。3ステップで階層ロジスティクス回帰分析を行いました。ステップ1では、年齢、性別、人種、教育、収入、BMI、ストレス、身体的健康度を説明変数としました。その結果、年齢、教育歴、身体的健康度が高いほどリバウンドせずに減量が維持されていました。ステップ2では、ステップ1の変数に加えて、朝食の摂取、食事のモニタリング、体重測定、身体活動を説明変数としました。しかしながら、これらの行動習慣はリバウンドには影響しませんでした。ステップ3では、ステップ1と2の変数に加え、2つのstigmaさらに主観的肥満度を説明変数としました。その結果、internalized weight stigmaが高いほど、および主観的肥満度が高いほど、リバウンドすることが示されました。しかしながら、experienced weight stigmaはリバウンドと関連性を示しませんでした。

分析において、ステップ2で追加した変数はいずれも、過去の先行研究において、減量を維持する行動習慣として報告された変数です。今回の結果では、それらの健康行動は減量維持には影響せず、internalized weight stigmaおよび主観的肥満度が減量維持を妨げる要因であることが示されました。Internalized weight stigmaはストレス、抑うつ感、過食との関連性が報告されていることから、internalized weight stigmaが高く、体重に起因した自己評価、自責感が強いパーソナリティをもつ人ほど、ストレスに対する脆弱性抑うつ感の上昇により、減量維持の継続が難しかったのではないかと推察することもできます。米国人の肥満度は日本人よりもずっと高く、一概に日本人に適用できるものではありません。しかしながら、いつもリバウンドをしてしまう、ダイエットに成功したことがないという人は、健康習慣を定着させる方法を考える以前に、自身の体型に対する否定的な感情、思い込みを払拭させ、まずは現状の体型を受けいれるというところから始めてみるとよいのかもしれません。

Puhl RM, Quinn DM, Weisz BM, Suh YJ. The Role of Stigma in Weight Loss Maintenance Among U.S. Adults. Ann Behav Med. 2017;51(5):754-763.