卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

女性は物理が苦手?可能性を広げる!

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学生の頃、物理は得意でしたか?女性は苦手だったと回答する方が圧倒的に多いのではないでしょうか。しかしながら、女性は本当に物理が苦手なのでしょうか。ただ単に、“女性は物理が苦手である”という思い込みが原因だったのかもしれません。科学・技術・工学・数学(STEM)分野で女性の専門家が不足していることが問題視されています。今回はScienceから、日本人の方の研究をご紹介したいと思います。

Miyakeらは、15週間の物理学の講義で、value affirmationを用いた心理的介入が女性の成績を上げるかどうかを評価することを目的として、ランダム化二重盲検比較試験を行いました。学生399名(男性283名、女性116名)は、介入群と対照群の2つのグループにランダムに分けられました。value affirmationの介入群は、講義とは無関係であり、自身にとってもっとも重要なもの、価値のあるものについて(例:家族、友人、取り組んでいる学習)、リストから選び、選んだ理由とともに、10-15分間記述しました。一方、対照群は、同じリストから、自身にとってもっとも価値が低いものを選んで、選んだ理由とともに記述しました。講義の内容に関する試験と一般的な物理学の概念に関する調査表(the force and motion conceptual evaluation: FMCE)の結果をアウトカムとしました。その結果、講義の内容に関する試験では、いずれの群も女性は男性よりも得点が低くかったものの、介入群は、対照群よりも有意に男女差が減少しました(p < 0.01)。また、FMCEでは、対照群では、男性が女性よりも有意に高い得点を示しましたが、介入群では、その有意性は消失し、女性が男性よりも高い得点を示しました(性別×介入有無、p = 0.03)。さらに、男女差に関する固定観念の高低は男性には影響しませんでしたが、固定観念が高い対照群の女性は、試験およびFMCEはもっとも低い得点であったのに対して、固定観念が高い介入群の女性は試験の得点の改善、およびFMCEの得点は男性よりも高い得点を示しました(性別×介入有無×固定観念p < 0.01 and p = 0.02)。つまり、女性は物理が苦手であると思っていた女性ほど介入効果がありました。

物理学に関わらず、“私は理系だから英語が苦手”、“私はこういう人間だから・・・”、こんな思い込みに縛られていませんか。女性で初めてノーベル賞を受賞したキュリー夫人は、ただ好きだからという理由で科学者になりました。ドイツのアルベルト・シュヴァイツァー神学者、哲学者でしたが、“30歳からは世のために尽くす”として、医者になりました。自分の才能の限界を作っているのは自分自身かもしれません。秀でた才能があったら、いろんなことに挑戦するのに、そんなふうに考えていませんか。何かチャレンジしたいと思っている方は、自身が気づいていなかった隠れた才能を引き出すチャンスかもしれません。

Miyake A, Kost-Smith LE, Finkelstein ND, Pollock SJ, Cohen GL, Ito TA. Reducing the Gender Achievement Gap in College Science: A Classroom Study of Values Affirmation. Science. 2010; 330(6008): 1234-1237.