卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

クリエイティブな思考力を高める

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そろそろ紅葉が見頃の季節となりました。普段、自宅で過ごすことが多い方も、紅葉に出掛けようと考えている方もいらっしゃることでしょう。Creative thinkingとは「創造的思考」と訳され、新しく価値のある着想を生み出すような思考と定義されています。では、自然の中で過ごす場合と、都会の中で過ごす場合では、どちらの環境で、より創造的思考が活性化されるのでしょうか。

Palanicaらは、都会環境と比較した場合、自然環境において創造的思考がより活性化するのではないかという仮説をたて、2つの研究を行いました。研究1では、84名(男性43名、女性41名、平均年齢33.6歳)を対象として、2Dのタブレットと3D VRのヘッドセットを使用して、屋内で再現された自然環境と都会環境で創造的思考が活性化されるかどうかを調査しました。創造的思考はAUT(the Alternate Uses Test)を使用して評価しました。例えば、ボタン、クリップといったありきたりのものをテーマとして、新しい活用方法を考え出し、その発想の柔軟性等を比較します。その結果、いずれの器具を使用しても、都会環境と比較した場合、自然環境において、創造的思考が有意に活性化されました。研究2では97名(男性67名、女30名、平均年齢37.9歳)を対象として、2Dのタブレットの使用と実際の自然環境および都会環境で創造的思考が活性化されるかどうかを調査しました。その結果、タブレットによる再現では、都会環境と比較して、自然環境において、創造的思考が有意に活性化されました。しかしながら、実際の屋外での実験では、自然環境と都会環境のいずれの環境においても、創造的思考が活性化されました。

忙しくて、紅葉を見に行く時間がないという人は、自然を再現した映像に触れることで、新しい着想を得ることができそうです。先行研究では、職場に植物を設置するなど自然に触れる環境をつくることで、仕事の満足度が高まる、怒りが軽減する、病欠が減少することが報告されています。また病院でも同様に、自然に触れる環境下では、病気の回復が早くなる、術後の痛みが軽減されることが報告されています。今回の結果から考察すると、仮説と反して、都会の環境においても、屋外で過ごすことで、創造性は高まることが期待されます。新しい着想を得たい方は、街中を散策してみることも良いようですね。しかしながら、自然の中で過ごすことの心地よさは誰もが知るところでしょう。コロナ禍で三密を回避できるアウトドアが人気となっています。屋外で、紅葉を見ながら、ゆったりとした時間を過ごすことができれば、これまでにない新しい発想が生まれるのかもしれません。

Palanica A, Lyons A, Cooper M, Lee A, Fossat Y.A comparison of nature and urban environments on creative thinking across different levels of reality. Journal of Environmental Psychology. 2019;63, 44-51.