卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

身体をあたためて睡眠を改善する

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近頃、とても寒くなりましたね。ついつい長く湯船につかってしまうという方も多いのではないでしょうか。よく、お風呂に入ると、ぐっすり眠れると言いますが、科学的根拠はあるのでしょうか。複数の文献の結果を用いて、効果検証を行うメタアナリシスによると、40-42.5℃で身体を温めると(シャワー、足浴、または浴槽)、入眠潜時(覚醒状態から眠りに入るまでの時間)、睡眠の質、睡眠効率(ベッドで横になっている時間と寝ている時間の比率)において有意な改善がみられました。一方、中途覚醒の減少、睡眠時間、ノンレム睡眠の増加において有意な改善はみられませんでした。身体を温めることで、必ずしもぐっすり眠れるというわけではないようです。今回は、この中から、入眠潜時の改善効果を報告した論文をご紹介したいと思います。

Seyyedrasooliらは、足浴による高齢者の睡眠改善効果を検証する目的で、46名の男性(平均年齢:67.3歳)を対象として、ランダム化比較試験を行いました。参加者は、足浴を行う群と対照群の2群に分けられました。足浴を行う群は、6週間毎晩、睡眠1時間前の20分間、41-42℃の温かいお湯に足をつけました。実験の前後において、the Pittsburgh Sleep Index (PSQI)を用いて、睡眠の質を評価しました。PSQIは18の質問から構成され、睡眠を7つの下位尺度(睡眠の質、入眠潜時、睡眠時間、睡眠効率、中途覚醒眠剤の使用、日中の眠気)で評価できる尺度です。その結果、実験前後で比較した場合、足浴群は、睡眠の質、入眠潜時、睡眠時間、中途覚醒、日中の眠気の5つの下位尺度において、有意な改善がみられました。また、対照群と比較しした場合、入眠潜時と睡眠時間において、有意な改善効果がみられました。さらに、足浴群の中途覚醒は、69.6%から39.1%に減少したのに対して、対照群は、56.5%から47.8%の減少にとどまりました。

今回の研究は、足浴による介入でしたが、浴槽につかることでも同様の効果が期待できると思います。睡眠障害の1つで入眠障害というタイプがあります。布団に入っても、なかなか寝付けないという方ですね。このような方は、寝る1-2時間前に、20分程度、浴槽につかることで、これまでよりも早く寝付くことができるかもしれません。湯船につかった時の、ほっとした感覚を思い出すだけで、とても幸せな気持ちになれますね。さらに寝つきが良くなるのであれば一石二鳥ではないでしょうか。

Shahab H, Sepideh K, Michael HS, Kenneth RD, Richard JC. Before-bedtime passive body heating by warm shower or bath to improve sleep: A systematic review and meta-analysis. Sleep Medicine Reviews. 2019;46, 124-135.

Seyyedrasooli A, Valizadeh L, Zamanzadeh V, Nasiri K, Kalantri H. The Effect of Footbath on Sleep Quality of the Elderly: A Blinded Randomized Clinical Trial. Journal of Caring Sciences. 2013; 2, 305-311.