卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

幸せホルモンで学習と共感性をアップさせる!

f:id:hrk023678:20191124130515j:plain


“幸せホルモン”というのをご存知ですか?母親が子育てをする際に、視床下部から分泌されるホルモンのことで、オキシトシンといいます。人や動物とのスキンシップ、美しいものを見る、美味しいものを食べる、人に親切にする、このような行動で分泌されることが知られています。そして、オキシトシンは、ストレスを緩和させる、食欲を抑制するなど、様々な効果が報告されています。そこで、今回はオキシトシンと学習促進効果および共感性との関連を報告した研究をThe Journal of Neuroscienceからご紹介します。

Hurlemannらは、48名の健康な成人男性を対象として、オキシトシンの点鼻による摂取群(24名、平均年齢27歳)とコントロール群(24名、平均年齢25歳)の学習促進効果(笑顔または怒りの表情による社会的フィードバック vs 緑と赤のサインによる非社会的フィードバック)および共感性(認知的共感性 vs 感情的共感性)を評価し、分散分析を用いて比較しました。学習効果はreinforcement association learning task (RALT)、共感性はMultifaced Empathy test (MET)を用いて評価しました。その結果、社会的フィードバックを使用した場合、非社会的フィードバックを使用するよりも、より学習促進効果が高いことが示されました。オキシトシン群では、この傾向がより強く見られました。さらにオキシトシン群は感情的共感性も非常に高いことが示されました。特に、点鼻でオキシトシンを摂取した男性は、何も摂取していない女性と同じレベルの感情的共感性を示しました。さらに著者らは、オキシトシンの受容体が多く存在する扁桃体に着目しました。遺伝的疾患であるウルバッハ・ビーテ病の患者は、扁桃体が主として石灰化するため恐怖を感じることがありません。そこで、この疾患に罹患した双子の女性2名に対して同様の実験を行いました。その結果、社会的学習と感情的共感性は高まりませんでしたが、非社会的な学習と認知的共感性には影響しませんでした。以上のことから、オキシトシンは、社会的フィードバックを使用した学習促進効果と感情的共感性を高めることが結論付けられました。

実は、オキシトシンは、コミュニケーションや対人関係に障害をもつ自閉スペクトラム障害の方の治療薬として期待されています。近頃、全国で災害が増え、ボランティアの方の報道をしばしば拝見します。他人のことを考え、一生懸命に奉仕した後、とても幸せそうな表情を浮かべます。人一倍オキシトシンが分泌されて、人一倍幸せを感じているのかもしれません。一人ひとりが思いやりをもって生きたなら、誰もが生きやすい社会が実現するのではないでしょうか。

Hurlemann R, Patin A, Onur OA, Cohen MX, Baumgartner T, Metzler S, Dziobek I, Gallinat J, Wagner M, Maier W, Kendrick KM. Oxytocin enhances amygdala-dependent, socially reinforced learning and emotional empathy in humans. The Journal of Neuroscience. 2010:30(14);4999-5007.