卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

"共感力"が感情を豊かにする

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外出を控える日々が続きますね。自宅でどのように過ごしていますか。読書をする、料理をする、運動をする、オンライン飲み会をする。中でも、映画を見る機会が増えた方も多いのではないでしょうか。最近は定額で利用できるサービスが増え、手軽に様々なジャンルの映画を見ることができるようになりました。では、映画を見ている時、どのような場面に感情が反応するのか意識したことはありますか。今回は、共感性の高低がどのような感情と関連するのかを調査した研究をご紹介します。

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らは、まず精神疾患の既往がない94名の女子学生(平均年齢 20歳)に対して共感性を評価する調査(the Interpersonal Reactivity Index)を行いました。参加者の中で、共感性が高い群(20名)と低い群(21名)の2群に対して以下の実験を行いました。4つの感情(恐怖、慈悲、情欲、ニュートラル)のいずれかに該当する8種類の動画を鑑賞してもらい、主観的な感情評価および高度な認知活動と関連するガンマ帯域脳波の計測を行いました。その結果、主観的な感情評価では、共感性が高い群は、低い群に比べると、すべての感情で高い得点を示しました。また、ガンマ帯域脳波の計測では、共感性が高い群は、ニュートラルな動画を基準とした場合、全ての感情で高い反応を示したのに対して、共感性が低い群は、ネガティブな動画に対してのみ高い反応を示しました。さらに、共感性が高い群は、恐怖と慈悲に対するガンマ帯域脳波の反応と主観的評価の間で強い相関を認めました。

抑うつ状態は脳内物質のセロトニンの減少と深く関連しています。そのような抑うつ状態の改善には、ウォーキングをする、ジョギングをする、ガムを噛むなど、リズミカルな運動で、セロトニン神経を活性化させることが効果的であることが知られています。実は、もう1つ、共感して感動の涙を流すことで、セロトニン神経を活性化させることができるのです。東邦大学の名誉教授で有田秀穂先生は、著書の「共感する脳」の中で、共感の涙はセロトニン神経の活性化と関連しており、副交感神経を刺激して、リラックス効果があり、ストレスの緩和につながることを述べています。今回の題名を“共感性”ではなく、“共感力”としたのは、鍛えることができる能力の1つと考えるからです。たくさんの感動をして、共感力を鍛え、ポジティブな感情を高めることは、ストレスの緩和やうつ病の予防だけでなく、人生そのものを豊かにしてくれることと思います。

Maffei A, Spironelli C, Angrilli A. Affective and cortical EEG gamma responses to emotional movies in women with high vs low traits of empathy. Neuropsychologia. 2019;133, 107175.