卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

活動範囲をひろげる:ライフスペース(Life Space)

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ライフスペース(Life Space)とは、人が生活する範囲を意味します。ライフスペースが広い人ほど、多くの居場所を持ち、たくさんの人と交流をしています。広く良好な社会的なつながりをもつ人ほど、健康であるということは容易に想像ができます。では、科学的根拠はあるのでしょうか。そこで今回は、ラッシュ大学のBryan D Jamesらが行った研究論文をThe American Journal of Geriatric Psychiatryからご紹介します。

Jamesらは、狭いライフスペースアルツハイマー病、軽度認知障害(MCI)、認知機能低下と関連すると仮説を立て、2つの前向きコホート研究(The Rush Memory and Aging Project and The Minority Aging Research Study)の中の1つのプロジェクトとして研究を行っています。シカゴ近郊の高齢者向け施設、教会、高齢者住宅に在住して、研究開始時点で認知症がない1、554名の高齢者を対象とし、最終的に1、294名を分析対象としました。ライフスペースは、修正版のLife Space Questionnaireを用いて評価しました。平均4.4年間の追跡の結果、180人(13.9%)の人がアルツハイマー病を発症しました。年齢、性別、人種、教育の影響を除いても、狭いライフスペースアルツハイマー病の発症リスクと有意に関連していました(ハザード比 = 1.21, 信頼区:1.08-1.36, p=0.001)。自宅から外出しない人は、郊外まで外出する人に比べて、1.8倍も多くの人が発症していました。この関係は、身体機能、抑うつ度、血管障害等を考慮しても消失しませんでした。また、狭いライフスペースは、軽度認知障害(MCI)の発症とも有意な関連を示しました(ハザード比 = 1.17, 信頼区:1.06-1.28, P=0.001)。自宅から外出しない人は、郊外まで外出する人に比べて、1.6倍も多くの人が発症していました。さらに、ライフスペースは認知機能が変化する速度とも有意に関連していました。

実は、このプロジェクトでは参加者が亡くなったあと、脳の解剖を行っています。すると、ライフスペースが広い人は、脳がアルツハイマー病の状態であっても、発症していなかったことを明らかになりました。古い家でも、空気を入れ替え、人が住み続ければ、何十年も良好な状態を維持できます。脳が病的な状態であっても、人との交流を広く持ち、その刺激によって常に脳を使い続ければ、病気は発症しないということでしょう。あなたのライフスペースは広いですか、それとも狭いですか?狭いかもしれない…そう思った方は、まずは共通の趣味をもつコミュニティを探してみてはいかがでしょうか。

Bryan D. James, Patricia A. Boyle, Aron S. Buchman, Lisa L. Barnes, and David A. Bennett. Life Space and Risk of Alzheimer Disease, Mild Cognitive Impairment, and Cognitive Decline in Old Age. The American Journal of Geriatric Psychiatry. 2011:19(11);961-969.