卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

姿勢が心の緊張を緩める:パワーポーズ(Power Posing)

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パワーポーズ(Power Posing)は、社会心理学者Amy CuddyのTEDでのプレゼンテーションでご存知の方も多いのではないでしょうか。力強いポーズ、自信が高まるポーズのことを言います。日本語で「肩を落とす」とは、「がっかりして、力が抜けて肩が下がる」ことを意味しますが、これは、心の状態がしぐさや姿勢に影響することを表現した言葉です。それとは逆に、しぐさや姿勢を変えることで、心の状態を変えることができます。そこで今回は、Amy Cuddyのグループが行った研究論文をPsychological Scienceからご紹介したいと思います。

Danaらは、パワーポーズの心理的効果だけでなく、生理的効果を明らかにすることを目的として、42名(女性26名、男性16名)の参加者を対象とした介入研究を行いました。参加者はランダムにハイパワーポーズ(high power posing)を行う群とローパワーポーズ(low power posing)を行う群の2群に分けられました。ハイパワーポーズは腕を開き、開放的な姿勢、ローパワーポーズは腕を閉じ、閉塞的な姿勢です。各群はそれぞれ2種類のポーズを1分間ずつ行うように指示されました。この介入前後において、唾液中のやる気と関連するテステステロンとストレスと関連するコルチゾールの測定、心理状態の評価を行い、比較を行ないました。さらに、介入後に2ドルの報酬を与え、4ドルを賭けたサイコロゲームに参加するかどうかギャンブル行動の実行性を2群間で比較しました。その結果、ハイパワーポーズ群は、ローパワポーズ群と比較して、介入後はテステステロン(p<0.05)は有意に増加、コルチゾールp<0.02)は有意に低下していました。また、ハイパワーポーズ群の86.4%がギャンブル行動を実行したのに対して、ローパワーポーズ群は、60.0%しかギャンブル行動を実行しませんでした(p<0.05)。また、ハイパワーポーズ群(mean=2.6, SD=0.8)は、ローパワポーズ群(mean=1.8, SD=0.8)よりも、自分はよりパワフルであると感じていました(p<0.01)。この研究は、たった2分間のポーズが心理的な状態だけでなく、生理的状態に変化を与えること示しました。著者らは、しぐさや姿勢が感情、認知への影響だけでなく、生理的変化を引き起こし、その後にどのような行動をとるのか、行動の選択にも影響すると考察しています。

姿勢と心の状態の密接な関連性については、様々な研究があります。座禅をすると心が落ち着くということは、日本人であれば、多くの方が経験されてるのではないでしょうか。人前で話すのは緊張するという方は、たった1、2分間だけパワーポーズをとってみて下さい。緊張がほぐれ、やる気が出てくるのを感じませんか。

Dana RC, Amy JC, and Andy JY. Power posing: Brief nonverbal displays affect neuroendocrine levels and risk tolerance. Psychological Science. 2010:21(10);1363-1368.