卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

香りを楽しんで老化を防ぐ

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花粉症の季節になりましたね。匂いを正常に感じることができない状態、つまり嗅覚障害を経験されている方も多いことでしょう。また、最近ではコロナ感染症の後遺症の1つとして嗅覚障害が報道されています。回復後も長期間におよび症状が継続するようです。しかしながら、実は花粉症でなくても、コロナに感染しなくても、年齢と共に嗅覚の機能は徐々に落ちていきます。いわゆる嗅覚の老化ですね。20代をピークに衰えていくといわれています。そこで、今回は、そのような老化する嗅覚を改善させることができるのかを検証した研究をご紹介します。

Birte-Antinaらは、嗅覚トレーニングが認知機能、抑うつ感、QOL(Quality of Life)の改善に影響するかどうかを明らかにすることを目的として、大学病院の耳鼻咽喉科において、外来患者を対象とした介入研究を行いました。研究には121名が参加して、最終的に91名(平均年齢 61.1歳、50-84歳)が継続しました。遂行できた91名のうち60名は嗅覚トレーニング介入群(平均年齢 60.8歳、女性45名、男性15名)、31名は対照群(平均年齢 61.4歳、女性26名、男性5名)でした。介入期間は5カ月間、介入前後において、嗅覚機能(Sniffin' Sticks)、認知機能(MoCA等)、抑うつ度(BDI-1)およびQOL(WHO Well-Being Index)の評価を行いました。嗅覚トレーニング群の参加者は4つの香り(ライムのシトロネラソウ、クローバーのオイゲノール、ユーカリユーカリ油、ローズのフェネチルアルコール)を嗅ぐトレーニングを1日2回行いました。対照群の参加者は数独を1日2回行いました。両群を比較した解析の結果、嗅覚トレーニング群は有意に嗅覚機能、認知機能、主観的well-beingが改善していました。また、軽度の抑うつ症状を示した参加者を対象としてサブ解析を行ったところ、介入群において有意に抑うつ症状が軽減していました。

視力や聴覚の機能の低下に比べて、徐々に低下する嗅覚の機能には気づきにくいといえます。しかしながら、嗅覚は五感の中でも唯一人間の感情を支配している大脳辺縁系を直接刺激する重要な感覚器でもあります。嗅覚障害はうつ病アルツハイマー認知症およびパーキンソン病など中枢神経系疾患の発症と関連することが知られており、感情への影響が関連するのかもしれません。普段、食事の香りを楽しんでいますか。淹れたてコーヒーの香りを思い出すだけでも気分が良くなりませんか。食事はただ栄養をとるだけが目的ではありません。よく香りを楽しむことで、気分も良くなり、認知機能の改善、病気の予防にもつながります。あなたのお気に入りの香りを見つけてみてはいかがでしょうか。

 

Birte-Antina W, Ilona C, Antje H, Thomas H. Olfactory training with older people. Int J Geriatr Psychiatry. 2018;33(1):212-220.