卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

抑うつ感は食行動を悪化させる

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疲れたときや気分が落ち込んだときほど、甘いものやお菓子を食べたくなりますよね。これは脳の機能低下が原因と言われています。では実際に人は抑うつ感が高いとき、どのような食行動を選択するのでしょうか。今回はAppetiteの論文をご紹介します。

Paansらは、オランダで実施された大規模コホート研究(the Netherlands Study of Depression and Anxiety)の9年間の追跡調査のデータを用いて、うつと摂食行動に関する研究を行いました。FFQsemi-quantitative food frequency questionnaire)による摂食行動(エネルギー量、地中海食[健康食]、甘いもの、ジャンクフード)をアウトカムとして、DSM-Ⅳによるうつ病の診断(精神疾患の既往歴なし、うつ病の既往歴あり、現在うつ病の罹患あり)とDEBQDutch Eating Behavior Questionnaire)による摂食スタイル(情動的摂食、外発的摂食、抑制的摂食)の関連性を評価しました。ここで、情動的摂食とは怒りや不安などの感情によって喚起される摂食、外発的摂食とは視覚、嗅覚などの外的刺激によって喚起される摂食、抑制的摂食とはダイエットなど制限傾向のある摂食を指します。条件を満たした1,442名のデータ(平均年齢 51.7歳)を解析の対象としました。22.7%精神疾患の既往歴なし、61.0%が過去にうつ病の既往歴あり、16.3%が現在うつ病の罹患ありでした。全ての分析は、年齢、性別、教育歴、婚姻、BMI、喫煙、身体活動によってコントロールしました。線形回帰分析の結果、現在のうつ病の罹患および重症度は甘いものの摂食行動(p0.01)、ジャンクフードの摂食行動(p0.01)と有意な正の相関を示し、健康食とされた地中海食(p0.001)と有意な負の相関を示しました。情動的摂食と外発的摂食はそれぞれジャンクフードの摂食行動(p0.01、p0.001)と有意な正の相関を示し、抑制的摂食は健康な食行動(p0.01)と有意な正の相関を示しました。また媒介分析の結果、抑うつ状態は外発的摂食スタイルを介して間接的にジャンクフードの摂食行動と関連していました。しかしながら、著者らの仮説と反して、情動的摂食を介した不健康な摂食行動は見られませんでした。

今回の論文は、抑うつ状態から不健康な食行動への影響を示したものですが、逆に不健康な食習慣が抑うつ状態を悪化させることも知られています。セロトニンうつ病と深く関連する神経伝達物質です。そのセロトニンの生成に必要なトリプトファンの摂取が少ない場合、うつ病が悪化することが指摘されています。トリプトファン必須アミノ酸の一種で主に豆腐、納豆、味噌などの大豆食品、チーズ、牛乳、ヨーグルトなどの乳製品,穀物、果物等に多く含まれています。気分が落ち込んでいる方は、無意識のうちに甘いものを手にとっているかもしれません。抑うつ状態と不健康な食行動の負のループに陥らないよう十分ご注意下さい。

Paans NPG, Gibson-Smith D, Bot M, van Strien T, Brouwer IA, Visser M, Penninx BWJH. 
Depression and eating styles are independently associated with dietary intake. Appetite. 2019;134:103-110.