卒薬のすすめ

心理学で博士号を取得した薬剤師が薬に頼りすぎずに心身の健康を維持する情報を海外の論文に基づいて紹介するブログ

秋刀魚を食べて気分をよくする

お魚を食べる習慣はありますか。秋には秋刀魚、秋鮭、冬にはマグロ、サバ、ブリが旬をむかえますね。これらの魚には、EPADHAといったオメガ3脂肪酸が豊富に含まれています。オメガ3脂肪酸は、動脈硬化の進行を抑制する効果があるため、医療現場では脂質異常症の治療薬として使用されています。さらに、オメガ3脂肪酸には、血圧を下げる効果、アレルギー反応を抑制する効果、神経細胞を活性化して脳の機能を改善する効果、抑うつ症状の改善効果が知られています。今回は、中でも抑うつ症状を改善することを示した研究をご紹介します。

Beydounらは、メリーランド州ボルチモア市の成人を対象にして行われたHealthy Aging in Neighborhoods of Diversity across the Life Span(HANDLS)横断研究(2004~2009年)のデータを用いて、1746 名の成人(年齢 30–65歳)のオメガ3脂肪酸の摂取量と抑うつ症状の関連性を調査しました。対象者の2日間の食事データから摂取したオメガ3 HUFAs(炭素数20以上のオメガ3脂肪酸、主として魚油)、オメガ3 PUFAs(炭素数18以上のオメガ3脂肪酸、主として魚油およびえごま油などの植物性油)、オメガ6脂肪酸(主として食用油)との比を計算しました。抑うつ症状は、CES-D(Center for Epidemiologic Studies–Depression Scale)を用いて評価しました。CES-D16点以上で抑うつ状態と判定されたのは、男性18.1%、女性25.6%でした。年齢、性別、人種、家族構成、学歴、収入、BMI、喫煙の影響を考慮した上で、抑うつ症状をアウトカムとする多重ロジスティック回帰モデルで分析を行いました。その結果、オメガ3 PUFAsの摂取量がもっとも多い女性群(上位25%)はもっとも少ない女性群(下位25%)と比較して抑うつ症状が49%減少しました。また、女性では、オメガ3 PUFA:オメガ6 PUFAの比およびオメガ3 HUFA:オメガ6 HUFAの比が高いほど、抑うつ症状は減少しました。とくに、オメガ3 PUFA(魚油および植物油)の摂取が多い人は身体的症状の訴えは低く、オメガ3 HUFA(魚油)の摂取が多い人は高いポジティブ感情と関連することが示されました。

油の種類は様々です。一般に油は不健康な食品と考えられていましたが、1960年後半にグリーンランドの先住民イヌイットが心臓病で亡くなる人の割合が低いことが注目され、EPAが発見されました。イヌイットは魚やアザラシなどを主食とした高脂肪食であったにも関わらず、EPAを高用量摂取していたため、心疾患が低かったと結論づけられました。脂がのった旬のお魚は、とても美味しいですね。そして、気分もよくなるというのであれば一石二鳥です。お魚を食べて、気分を良くする習慣を始めましょう。

Beydoun MA, Kuczmarski MTF, Beydoun HA, Hibbeln JR, Evans MK, Zonderman AB. ω-3 fatty acid intakes are inversely related to elevated depressive symptoms among United States women. J Nutr. 2013;143(11):1743-1752. doi:10.3945/JN.113.179119